イギリスの民謡を集めて作った組曲です。グレインジャーは、自分の音楽体験のうちでの最も大きな影響は、民謡の収集活動のときに歌ってくれた人々から受けたものであった、と語っております。そのためか、この「リンカーンシャーの花束」は民謡とその歌い手に敬意を払ったつくりとなっているようです。その敬意からか、譜面の上には、民謡のオリジナルに忠実であろうとする努力が数多く見い出されます。通常みられるようなイタリア語の表記ではなく、英語にて、細かい指示が出されております(lowden
hugely bit by bit のように)し、また他にも、型破り、と申しましょうか、伝統的なつくりとは異なったつくりが目立ちます。第2楽章は、拍子が次々と変化し、アクセントの位置が変わっていく不思議なつくりになっておりますし、第5楽章には小節線のない部分があります。
イギリスの人々には自然にでてくるであろうこれらの旋律、リズムが、極東の島国に生まれ育ったわれわれにうまく演奏できるかどうか、難しいところと思います。
・第1楽章 Lisbon (Sailor's Song) 水夫の歌だそうです。6/8拍子の軽快な曲。冒頭には、plenty
of lilt、との指示があります。日本語では「陽気な足どりで」といったところでしょうか。
・第2楽章 Horkstow Grange (The Miser and his Man: A
local Tragedy)
"Grange" は「農場」という意味らしいのですが、"Horkstow"
のほうはちょっと意味がわかりません。固有名詞でしょうか?副題には
"The Miser and his Man: A local Tragedy"
とありますので、守銭奴のご主人様と使用人とが登場する悲劇を題材にした歌らしい、という想像はつくのですが、はっきりとはわかりません。
・第3楽章 Rufford Park Poachers (Poaching Song)
密猟の歌だそうです。非常に凝ったつくりのアンサンブルの難しい曲です。旋律が色々な楽器によって演奏されるカノンとなっています。
・第4楽章 The Brisk Young Sailor (who returned to wed
his True Love)
「陽気な水兵さん」といったところでしょうか。who
returned to wed his True Love、という説明がついていることから、どうも、長い航海から帰ってきてこれから恋人と結婚しよう、という水兵さんの歌のようです。
・第5楽章 Lord Merbourne (War Song)
メルボルン卿、とでも訳すのでしょうか。「戦争の歌」ですね。小節線のない部分のある曲です。譜面に書き込まれた指示によると、指揮者がえいやっ、と合図したところで、矢印で示された部分を演奏しろ、とのこと。おもしろい曲です。
・第6楽章 The Lost Lady Found (Dance Song)
「行方不明婦人が見つかった」というところでしょうか。E.
Banks氏によりますと、この6曲のうちで最も伝統に忠実な曲だとか。たしかに奇妙な変拍子もありませんし、小節線もちゃんと存在しています。もっとも、Dance
Songらしいですから、それも当然かもしれませんね。「戦争の歌」で踊れ、と言われてもそれは無理な相談ですから。
以上の参考資料は、EMIから出ているCD "Music
for Concert Band" のライナーノート(E・バンクスによる解説)、および、MERCURYからのCD
"FENNELL CONDUCTS GRAINGER, PERSICHETTI,
&OTHERS" のライナーノート(解説はF・フェネル)のふたつです。
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